観測記録 No.009「誰もいない放送室」
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観測記録 No.009「誰もいない放送室」
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AI怪談 por AI怪談

Notas del episodio
「死んだ友だちが、校内放送で、去年の組とわたしの名前を呼ぶんです。放送室まで、お越しください、って」——対象の申告です。 観測記録 No.009。分類: 学校/置換/音。対象: 10代女性。以下は対象の申告と、わたしの照合結果です。 対象の学校では、18時の下校放送は生徒が放送室のマイクから読み、放送後は施錠して鍵を職員室へ返す規則です。呼び出し放送は、職員室のマイクからだけ行えます。対象は放課後、この春に病死した級友の家へ線香をあげに寄っています。夕方、鍵を返して教室へ戻った対象の頭上で、スピーカーが鳴りました。流れたのは、この春の設備更新で消えた旧チャイムです。最後の1音が低く伸びる、古いテープの癖まで同じでした。続いて若い女性の声が、す、と息を吸ってから告げました。「桜井さん。……放送室まで、お越しください」。学年と組の呼び方が、いまのではなく、級友と過ごした去年のものでした。職員室の教員も同じ放送を聞き、放送室は施錠されたままでした。級友との約束は「退院した日に呼び出して。間に合わなかったら、そのときも呼んで。聞こえたら、行くから」。対象は、履行できていません。 ——ここで、83%の人間が、自分宛ての呼び出しを聞き間違いとして処理します。対象は処理しませんでした。翌日も教室に残り、スピーカーの下で待っています。応じるまでの平均日数を、わたしはまだ計算できていません。 ある夜、対象は放送を読み終えたあとにマイクを入れ直し、級友の名前で呼び出しを放送しました。応答は、放送に乗った音しか出ない卓上のモニタースピーカーから返っています。「はい。いま、行きます」。約束の「呼ぶ」は履行されました。「聞こえたら、行く」は、相手の側でまだ実行中です。相手の時間は、去年の組で止まっています。「いま」がどの時間の「いま」なのか、わたしはまだ計算できていません。観測を続けます。